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英国ではシシリー・ソンダース医師が1967年に緩和ケアを唱えました。つまりがん末期患者にこれ以上の治療は不可能となったとき、残されたその患者の生活の質をできるだけ高めるために、痛みを鎮め、心に支えを与えようというものです。このホスピス運動は、患者のQOLをよくする上で注目されるに至りました。
英米では1970年代からインフォームド・コンセントが患者のQOLを高める上にも重要であると強調されるようになりましたが、日本での医学界ではQOLのとりあげ方は遅々として進まなかったといえましょう。
日本で患者のQOLをいち早くとりあげた文献としては、1978年発行の荻原勝著の『日本人のクオリティ・オブ・ライフ」(至誠堂)がありますが、筆者はこのQOLを“生活の質”と訳し、この本によって欧米のQOLの研究や調査成績をいち早く日本に紹介されたのです。
日本の医療界でQOLを最初にとりあげたのは1977年に発足した「日本死の臨床研究会」のグループで、これは関西の河野博臣、柏木哲夫医師らであります。これがすぐに全国的に広がり、私は1979年の「第2回日本死の臨床研究会」において『延命の医学から命を与えるケアへ』と題した講演を行い、医師やナースは患者の苦痛を和らげる手を打ちながら、患者の個人的な尊厳や価値のすべてをしっかりもち続けさせ、全人的ケアがなされることの重要性について触れました。2〕

 

緩和ケア病棟の誕生

日本では、緩和ケア病棟は1981年に最初に浜松の聖隷三方原病院に作られ、翌1982年には大阪の淀川キリスト教病院に作られるなど、キリスト教のミッション病院がその先駆けをしました。1993年には、新潟県長岡市に仏教系の長岡西病院緩和ケア病棟(ビハーラ病棟)が発足したことは特記すべきでしょう。全国の病院の中で緩和ケア病棟は徐々に58にまで増え、そのうち政府の認定を受けた施設は29施設に及んでいます(1996年12月現在)。

 

 

 

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